三菱自動車が岡崎製作所で受け入れた外国人技能実習生に対し、実習内容とは異なる仕事をさせていたことが明らかになったと、朝日新聞が報じました。
技能実習制度とその問題点について考えてみました。
目次
本社が実態を把握できておらず
三菱自動車が2016年以降、岡崎製作所(愛知県岡崎市)で受け入れたフィリピン人技能実習生65人のうち33人を、実習内容とは異なる仕事の現場で働かせていた。同社への取材で分かった。法務省は技能実習適正化法に違反する不正行為の疑いがあるとみて、外国人技能実習制度を共に所管する厚生労働省と調査する。
同社によると、33人は溶接技能の習得が目的で、4次にわたって受け入れたが、車体の組み立てや、実習計画より簡易な溶接を日常的にさせていた。技能実習制度では習得度合いの試験ができる作業を実習対象としており、33人の作業は技能実習に該当しない。
今年1月、実習生の紹介を受けた「協同組合フレンドニッポン」(本部・広島市、FN)から「仕事の中身に問題がある」と、岡崎製作所の担当者に指摘があったという。
岡崎製作所にはそもそも実習に見合った溶接職場はほとんどないのに、国側に溶接実習の計画を出していた。実習開始から1年後の評価試験に合格すれば、どの職場で働かせても実習の範囲内だと誤解していたという。安藤剛史・副社長執行役員は「現場が制度を理解していなかった。勝手な思い込みで、事の重大性を分かっていなかった」と話した。本社も実態を把握していなかったという。
出展:www.asahi.com
技能実習制度とは?
目的
「技能実習」あるいは「研修」の在留資格で日本に在留する外国人が報酬を伴う技能実習あるいは研修を行う制度で、厚生労働省によると、技能実習制度の目的として次のように定めています。
外国人技能実習制度は、我が国が先進国としての役割を果たしつつ国際社会との調和ある発展を図っていくため、技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力すること。
種類
そんな外国人技能実習生制度は大きく分けて2つの種類があります。
・企業単独型
企業等の実習実施機関が海外の現地法人、合弁企業や取引先企業の職員を受け入れて技能実習を実施。
・団体監理型
商工会等の営利を目的としない監理団体が技能実習生を受け入れ、傘下の実習実施機関で技能実習を実施。
また、いずれの型についても、入国後1年目の技能等を修得する活動と、2・3年目の修得した技能等に習熟するための活動とに分けられており、技能実習の1年目を「技能実習1号」、2・3年目を「技能実習2号」、企業単独型の1年目を「技能実習1号イ」、団体監理型の1年目を「技能実習1号ロ」、企業単独型の2・3年目を「技能実習2号イ」、団体監理型の2・3年目を「技能実習2号ロ」と表記します。
今回の件で受け入れを担当していたのは「協同組合フレンドニッポン」というフィリピン人技能実習生の受け入れ機関です。設立の1997年からこれまでに大手企業を含め200社以上に10,000名を超える受け入れを行っており、日本語教育から技能習得支援、そして実習期間終了までの手厚いサポート体制で実習生と受け入れ企業をつないでいます。
期間
滞在は基本的1年以内ですが、その後、日本の技能検定基礎2級相当に合格する等、所定の要件を満たした場合には、同一機関(会社)で実践的な技術習得のために雇用関係の下で更に2年間滞在することが可能となります。これを技能実習といい、研修・技能実習と合わせると最長3年間の滞在期間となります。
ですが2017年11月1日施行の「技能実習法」によって、制度が大きく見直されたことで、新たに技能実習3号を創設し、所定の技能評価試験の実技試験に合格した 技能実習生について、技能実習の最長期間が、現行の3年間から5年間になります。
制度の問題
人権侵害
主に発展途上国の外国人を雇うことで、人権侵害を伴う事件が多発しています。
2006年にはトヨタ自動車の下請け企業23社での最低賃金法違反、また岐阜県内の複数の縫製工場では時給300円で残業させていたことなどが報道されています。なかには1カ月あたり100時間を超える残業をさせていたために心疾患となり、死亡した例もあります。こうした安価な労働力として実習生を都合良く働かせる不正行為は人手不足が深刻な中小企業で相次いでいます。
三菱自動車の件について関係者によると、実習生の月給は愛知県の最低賃金を満たす約14万8千円で働いてもらっていると説明しています。しかし三菱の安藤剛史・副社長執行役員は「うちには安価な労働力として期待する動機はない」と話しており、2千人規模の岡崎製作所に対し年に多くて30人程度の実習生しか受け入れていないことを理由に挙げています。
受け入れ側による不正行為
また、法務省が平成30年3月23日にまとめた「技能実習制度の現状 (不正行為・失踪)」によると、平成29年に「不正行為」を通知した機関は213機関にのぼったものの、平成28年の239機関と比べると10.9%の減少、平成27年の273機関と比べると 22.0%の減少となっており、2年連続で減少しています。
平成29年に発生した不正には、このようなものもあります。
○ 技能実習計画との齟齬
「技能実習計画との齟齬」とは、地方入国管理局への入国・在留諸申請の際に提出した 技能実習計画と著しく異なる内容の技能実習を実施し、又は当該計画に基づく技能実習を実施していなかった場合である。
【事例】 技能実習生が出国確認時に、帰国を強制されている旨訴えたことを端緒に、食品製造業を営む実習実施機関が、工場における「惣菜製造業」の技能実習を行うとして受け入れた技能実習生を、食堂において主に掃除や皿洗い等に従事させていたことが判明した。
これがまさに今回の不正と同類のものでしょう。
不正はあたりまえ?
前述のように、受け入れ機関(会社)による不正自体はここ数年減少傾向にあるようですが、自ら不正をしていると言うはずもないので、不正行為は一定数存在していると思います。実際に技能を習得し、帰国した後その能力を発揮するような人はほとんどおらず、出稼ぎに来ているのが現状でしょう。
確かに三菱自動車といえど、わざわざ不正をして外国人を雇うのもおかしな話です。さらに海外拠点の社員ならともかく、短期間しか雇えない外国人に技能を習得させることに意味を見出していたかも疑問です。おそらく近年で言えば日産やスバルが完成検査の不正を行ったように、曖昧な状態が風土化してしまっていたのでしょう。その他自動車メーカーに対しても外国人技能実習生の実態調査が必要です。
この制度が問題なのは、これがれっきとした日本政府の事業であるということでしょう。政府がこうした事業に直接関与し、不当・劣悪な労働環境を放置している現状は相当おざなりと言わざるを得ません。しかし明らかに不当な扱いをしていたり、人権を大きく侵害していたならば、表面化するのは時間の問題ですが、制度の規定に反しているにもかかわらず、実習生もそれに同意をしているため発覚が遅れるケースもあります。
さらに大企業の場合、機密が海外へリークしてしまう危険性すらあります。今後さらに多くの外国人労働者を受け入れる中でそうした事態を避けるためにも、先手を打った早急な体制の確立と周知が必要とされています。
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