スズキ、ダイハツ、トヨタは3社で共同開発した軽商用EVバンを発表しました。
気になるその構造について考察してみました。
目次
3社で共用?
スズキ、ダイハツ、トヨタは2023年5月17日、3社で共同開発してきたBEV(バッテリーEV)システムを搭載した商用軽バン電気自動車(BEV商用軽バン)のプロトタイプを公開することを発表しました。
このBEV商用軽バンの導入にあたっては、スズキ、ダイハツの小さなクルマづくりのノウハウとトヨタの電動化技術を融合し、軽商用車に適したBEVシステムを3社で共同開発しました。
車両についてはダイハツが生産を行い、スズキ、ダイハツ、トヨタがそれぞれ2023年度内に導入する予定です。
一充電当たりの航続距離は200km程度を見込んでおり、配送業などのユーザーのニーズに応えることができる車両を目指して、現在開発を進めているといいます。
ダイハツ仕様(ハイゼットカーゴ)
トヨタ仕様(ピクシスバン)
スズキ仕様(エブリイ)
出典:https://carview.yahoo.co.jp
公開された写真では、スズキの車両に「エブリイ」、ダイハツの車両に「ハイゼットカーゴ」、トヨタの車両に「ピクシスバン」の車名が確認できます。
ピクシスバンはもともとハイゼットカーゴのOEMなので見た目の違いはエンブレムのみにとどまりますが、スズキに供給される車両についてはバンパーに若干のデザイン変更が見て取れます。
いずれにせよハイゼットカーゴをベースとした車両となるようです。
ダイハツが特許申請
遡ること2021年8月10日。ダイハツが電動車両の特許を申請しています。
出願された資料にはハイゼットカーゴのようなバンタイプの車両にEVを構成する部品が記載されており、そのレイアウトから駆動方式はFF(前輪駆動)であることが分かります。文面にも「駆動輪である前輪」と記載があり間違いありません。
2021年から開発を進めていたとしたら、今回発表されたモデルこそがこの特許を用いた車両であると予測されます。
貨物車両としてナンセンス?
現行のガソリン仕様の軽バンを含み、トラックといった荷物を積載する貨物車両は後輪駆動が一般的です。
荷物を積載した状態での発車や加速の際に、車両重心が後部に移動するため後輪への荷重が大きくなる現象が生じます。前輪駆動の場合フロントが浮くような状態となり、トランクションをしっかり利かせることができません。
さらに前輪の機構が複雑となり、一般的に最小回転半径が後輪駆動と比べて劣ります。積雪などの際は前輪駆動が有利ですが、1年を通してそうしたケースは限られますし、やはり後輪駆動がベストだといえます。
最大積載量は350kgと想定されますので、駆動方式はたいして問題ではないと判断されたのかもしれません。
ライバルはどうなのか
2023年現在、軽EVバンは三菱・ミニキャブMiEVのみですが、こちらはFR。
2024年にホンダが発売予定のN-VANのEV仕様ですが、詳細こそ不明なもののベースのN-VANがFFであることを考慮すると、同様にFFとなる可能性が高いです。
4WDがカギを握る
軽EVバンがこれから増えてくるわけですが、今のところ4WDモデルは存在していません。
ただでさえ小さな体の軽バンにおいて広い荷室はマストです。その上巨大なバッテリーを搭載すれば、航続距離は延びるかもしれませんが肝心の荷室が犠牲になることは明らかです。
さらに4WDの機構を詰め込もうとすると、モーターを少なくとももう1基搭載する必要があり消費電力も増加します。そうなると価格も大幅にUPすることは間違いなく、決して一筋縄ではいかないでしょう。
同じく商用バンである日産自動車が2014年から2019年まで販売していたNV-200の電気自動車モデル「e-NV200」についても、ラインナップは前輪駆動のみでした。
軽EVバンでこの課題をクリアするのはスペースや価格の面から非常に難しいと思われます。「4WDが出るまで待つ」のはやめておいた方がいいと個人的には思います。
普及してからが本番
先行するミニキャブMiEVは既に多くの企業に導入されており、後発のモデルもこれから実証実験を進めていくと思われます。
脱炭素、SDGsが取りざたされる昨今、社用車をEVへ置き換える動きは間違いなく大きくなってきています。難しいことを考えずにこうした軽EVバンに置き換えるだけで、対外的に環境保護活動のアピールになるという意味では、企業を中心にますます普及していくでしょう。その結果、やっぱり「ガソリンじゃなきゃだめだね」となる場合もあるかと思います。選択肢は少ないと言えど、航続距離だけではなく荷室の広さや駆動方式も考慮したうえで選ぶのが賢いと思います。
余談ですが、2011年に三菱自動車が生産・販売するミニキャブMiEVをスズキ向けに「EVエブリィ」としてOEM供給する協議が進められており、2012年度より本格的に供給する計画がありました。
国土交通省による型式認証も完了し、販売間近という段階で何故か計画は中止。12台のみが生産された幻のモデルとなってしまいました。
それから10年以上たってもなお他社からの供給に頼ることになるとは、他力本願の姿勢は否めません。
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