SUVと軽自動車が人気の昨今。原点回帰で登場した新型ジムニーの快進撃は留まるところを知りません。
オフロード重視のラダーフレーム構造を採用することで、軽自動車でありながら本格的なオフローダーとしての地位を独占しています。
かつては三菱からも「パジェロミニ」が発売されましたが、「軽自動車」「SUV」「2ドア」というモデルは、もう1台存在したのです。それがホンダ・Zです。
目次
ホンダZ
ホンダはこれからの時代を見据えたときに、小さい車の役割が大切になってくると考えました。
しかしそれだけではなく、そこに”ムーバー”として毎日をパワフルに広げてくれる行動力を備えつつ、なによりも走ることそのものが心をときめかすクルマを理想としました。
そこで1970年から1974年まで発売されていた2ドアクーペ「Z」の2代目として、1998年10月に「Z」の発売を開始。大きくコンセプトを変えたSUVタイプの4WD車として「Z」の名前を復活させました。
プラットフォーム
この車の特徴は何といってもプラットフォームにあります。
エンジンをミッドシップ、それも床下に配置した「アンダーフロアミッドシップ」に、4WDを組み合わせた新構造「UM-4」を採用しています。
これにより50:50の理想的な前後重量配分を実現し、さらに床下エンジン配置による低重心とあいまって、コントロール性、ブレーキング性を高い次元で両立させることに成功しています。
ちなみにミッドシップ4WDというレイアウトは、アウディ傘下に入って以降の全てのランボルギーニ車が採用しています。
EF型シビックからコンポーネンツを流用し、デフを省いて「90°向きを変えて」搭載。ドライブシャフトの替わりにプロペラシャフトを取付けたため、NA及びターボ全車のエンジンが縦置きに搭載されています。
また、このレイアウトによりボンネットに「フロント・ユーティリティボックス」として内部容量20リッター、最大積載量5kgの脱着式収納スペースを設けています。
動力性能
4WDとしての能力を最大限引き出すため、オフロードでの使用も考慮されています。アプローチアングル(フロント)40度、デパーチャーアングル(リア)50度、地上高195mmと十分に設けられています。
これは現行ジムニーと比べても遜色ない数値です。
さらに床下にエンジンを配置にしたことで、前輪の切れ角を大きくさせることができています。そのボディサイズ、短いオーバーハングともあいまって小さい回転半径を実現しています。
ジムニー(4代目) | パジェロミニ(2代目) | Z | |
アプローチアングル | 41° | 38° | 40° |
デパーチャーアングル | 50° | 46° | 50° |
地上高 | 205mm | 195mm | 195mm |
最小回転半径 | 4.8m | 4.8m | 4.6m |
ミッドシップとともに操る楽しさを引き出す一方、4WDならではの高い走破性を発揮します。
通常は後輪駆動ですが、不意の雨や雪・悪路などでは、自動的に前輪へも駆動力を伝えるビスカス・カップリング式のリアルタイム4WDを採用。走行状況に応じて四輪すべてに駆動力をかけ、操縦安定性、制動性能を向上させます。
外観の特徴
本格的な4WDとしての動力性能でありながら、スタイリッシュなのもこの車の魅力。
今こそ当たり前ですが、当時はセダン系の高級車以外では採用が少なかったグリップ式(取手式)のドアハンドルを未塗装ながら採用しています。
さらにミッドシップであるが故のサイドエアインテークも、飾りなどではなく当然機能しています。
軽自動車としては大きな15インチタイヤが、余裕の地上高を与えています。
終焉
販売台数はおよそ4万台。価格は凝った設計の割には抑えられていたものの、軽SUVとしては高すぎたことに加え、3ドアのみで使い勝手が悪い等の理由で販売は不振でした。
その理由からも分かる通り、スポーツでもオフロードでもない微妙な立ち位置が決め手に欠けたのではと思います。
「この車はどんな目的に使うのか良く分からないんですけども、多少のでこぼこ道だとか、それから高速道路だとか、非常に広範囲のところで、しかも天候や路面状況に関わらず安全に走れるようにと、安定よく走れるようにと目論んでで作ったもののようです。」
三本和彦 新車情報’98
凝ったメカニズムや性能は申し分ありませんでしたが、エンジンが床下に配置していることによる整備性の悪さ等もデメリットとなりました。
このため2002年1月に排ガス対策を行わないため生産を終了。ホンダ唯一の軽SUVは結果的に「失敗」としてわずか3年余りで幕を閉じました。
N-Zで復活はどうか?
Z無き後もジムニーは健在であり、パジェロミニも2012年まで存在していました。ジムニーは過去からの積み重ねが、パジェロミニはパジェロの名声が販売を後押ししたと考えられ、Zの不振は「ブランド力」の有無が大きく影響したと思われます。
しかし現在、ホンダにはN-BOXの大ヒットにより軽自動車のブランド力が増しています。人気軽自動車であるNシリーズ。そのSUVとして復活するのも面白いかと思います。最近流行りの軽SUVがホンダにはありませんから、「N-Z」として発売すればヒット間違いなし・・・、もとい、初代Zの面影はないですが。
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