自動車における電動化(EV)はますます加速しており、本格的に電気自動車の普及が進むといわれています。
そうなるとこれまでのエンジンといった内燃機関からモーターへと変わり、それに付随する多くの部品が不要となってきます。
内燃機関向けの部品を主に製造してきた部品メーカーは今後どのような活路を見出していくのでしょうか。
目次
EV化で不要になる部品への売上高依存度調査
三菱UFJモルガン・スタンレー証券が2016年公表したリポートが自動車産業で波紋を広げています。EVではガソリンエンジンやディーゼルエンジンといった内燃機関や変速機が消え、モーターや電池、インバーターに取って代わられます。リポートでは、そうしたEV化で消える部品への依存度が高いメーカーがリストアップされています。
EV化で不要になる部品への売り上げ依存度 | ||
順位 | 部品メーカー名 | 依存度 |
1 | 愛三工業 | 90% |
2 | エクセディ | 86% |
3 | 日本特殊陶業 | 83% |
4 | アイシン精機 | 55% |
5 | エフ・シー・シー | 52% |
6 | 武蔵精密工業 | 52% |
7 | 住友理工 | 51% |
8 | フタバ産業 | 50% |
9 | デンソー | 39% |
10 | ケーヒン | 30% |
以上が公表されたうちの上位10社となります。新興国などの需要拡大で業績好調な企業がほとんどですが、内燃機関向けの比率が高い企業ほど、株式市場からの評価が低くなる傾向が強いのも事実です。
投資家たちだけでなく、これから就職する方にとっても魅力は失われてしまいます。では、とりわけ依存度の高い上位3社、愛三工業、エクセディ、日本特殊陶業は今後の自動車産業の流れをどう考えているのでしょうか。詳しく見ていきたいと思います。
愛三工業
愛三工業株式会社(あいさんこうぎょう、英: Aisan Industry Co., Ltd.)は、愛知県大府市に本社を置く企業。トヨタ自動車の関連会社で、トヨタ自動車向けを中心とした自動車部品(主に燃料ポンプモジュール、スロットルボデー、キャニスタ、エンジンバルブなど)の製造・販売を主力としている。
売上高 | 単独:1,003億円 連結:2,153億円(2016年3月期) |
従業員数 | 単独:3,452人 連結:10,294人(2016年3月期) |
先ほどから言うように、今後エンジンが不要となる流れにおいて、愛三工業はどのように考えているのでしょうか。リクルートサイトに以下のような記述があります。
自動車業界は、石油(低エミッション)と脱石油(ゼロエミッション)という2つの大きな流れの中にある。EVやFCVが登場し、ゼロエミッションに注目が集まりがちだが、中国・インドなどの新興国の自動車マーケットはまだまだ拡大途中。さらに、先進国の規制強化への対応も取り組むべき重点課題だ。したがって、これからもガソリン車やHVなどの低エミッションへの要求は高まり続けるだろう。
出展:aisan-ind.co.jp
つまり今後も新興国を中心にハイブリッドを含むガソリン車の需要は高まり続けると考えているようです。愛三工業が公開している上の「自動車パワートレーンの将来予測」によると、EV化は進んでもPHVといったガソリンエンジンを持つエコカーが主体になっていくとしています。
エクセディ
株式会社エクセディ(英: EXEDY Corporation)は、大阪府寝屋川市に本社を置く自動車部品メーカー。主に自動車のクラッチとトルクコンバータ、二輪車用クラッチ、建設・産業・農業機械用のクラッチ・トランスミッションを製造している。みどり会の会員企業であり三和グループに属している。旧社名は「株式会社大金製作所」だが、ダイキン工業の関連会社ではない。
売上高 | 単独:1,167億円 連結:2,687億円(2016年3月期) |
従業員 | 単独:3,884人 連結:17,872人(2016年3月期) |
今後の自動車業界の動向についての記述は残念ながら見つけることができませんでした。ちなみに採用担当者からのメッセージとして以下のような記述がありました。
エクセディグループは、マニュアル自動車用製品とオートマチック自動車用製品の双方の分野で国内トップの実績を誇る駆動系メーカーです。世界25ヶ国44ヶ所の拠点を舞台に、グローバルで事業展開しています。さらに、グローバルでの事業展開を加速し、世界一の駆動系メーカーとなるためには、皆さんの多彩な才能、若い力が必要不可欠です。
主製品である自動車のクラッチやトルクコンバータなどは、EV化において不必要となってくるはずですが、特に気にしていないようですね。納得できるような大きな理由付けが欲しいところです。
日本特殊陶業
日本特殊陶業株式会社(にっぽんとくしゅとうぎょう、英: NGK Spark Plug Co.,Ltd.)(通称ニットク)は、スパークプラグ、セラミックス製品を製造するメーカーである。森村グループの一員。1936年設立。本社は愛知県名古屋市瑞穂区にある。全世界で事業を展開し海外売上比率は8割を超える。
売上高 | 単独:2,781億円 連結:3,476億円(2015年3月期) |
従業員 | 単独:5,823人 連結:13,197人(2015年3月期) |
新時代への挑戦として、以下のような記述がリクルートサイトにありました。
燃料電池自動車(FCV)の実用化を機に、「水素エネルギー」が大きな注目を集めている。水素エネルギーは使用時のCO2排出量がゼロで、水をはじめ天然ガスやバイオマス、さらには汚泥からも取り出すことができる「究極のエコエネルギー」。近い将来、私たちの社会を支えるエネルギーの新しい主役として大いに活用されることだろう。
この水素活用はクルマに限ったことではなく、家庭での活用がすでに始まろうとしているのだ。それが、家庭用燃料電池コージェネレーションシステムという省エネルギー機器で、そこで使用されるのが、ニットクが開発を進めている「SOFC(固体酸化物形燃料電池)」なのだ。
燃料電池にはいくつかの種類があり、それぞれ作動温度や発電効率などが異なる。SOFCは高温で作動するため、高い発電効率を得ることができるというメリットを持ち、低コスト化も実現できる。そのSOFCには「ジルコニア」というセラミックが使われるため、ニットクがこれまで培ってきたセラミック加工技術やノウハウを十分に活かすことができるのだ。
ニットクでは現在、SOFCに関する研究開発を多角的に進めている。家庭用燃料電池コージェネレーションシステム向けに開発を進めているのが「平板形SOFC」だ。平板形SOFCは小さな体積で発電できるため、システムの小型化に貢献できる。2017年からは家庭用に加え、より出力の大きい業務・産業用にも開発範囲を拡大している。世界が待ち望むSOFCをトータルにつくることができる企業は世界でも数えるほどしかなく、ニットクはその中でもトップを獲れる可能性を十分に秘めている。ニットクの新時代への挑戦は、今日、この瞬間も続いている。
また、新興国への挑戦として以下のような記述がありました。
今後も自動車の需要は増え続け、あらたな需要の多くを新興国が担うと予想されている。つまり、新興国においてニットクのスパークプラグやグロープラグ、酸素センサ、温度センサなどのニーズは今後間違いなく高まっていく。中でも世界最大の自動車生産国・販売国となった中国や、その次の時代を担うインド、アフリカなどへのチャレンジを積極的に進めていく予定だ。
つまり、これまで培ってきた技術を元に新製品の研究開発を積極的に行い、それと同時に新興国での拡大する需要に応えていくと考えているようです。自動車だけでなく、技術を新たな分野に応用していくのはいいアイデアと言えますね。新興国での需要があるうちに、新技術の確立が不可欠です。
まとめ
自動車の仕組みが大きく変わることで、企業の存続自体を揺るがすような事態になってきています。その中で今回取り上げた3社においては、エクセディを除き大まかなビジョンがうかがえました。
個人的にも電気自動車の普及率には地域によってバラつきがでると考えており、突然部品が売れなくなるといったことにはならないと思います。現に上記の部品メーカーも新興国を中心に売り上げを拡大しています。しかし先進国を中心にガソリン車の販売終了を宣言していたりと、内燃機関系の部品の販売数が減少することは確かです。
その中において、これまでのノウハウを活かした新技術の開発は必要不可欠でしょう。とりわけAIやIoTといった電子技術を組み合わせていくことが求められます。それはこれまでの事業内容と180度変わることもあるかもしれません。しかし時代に適応しなければ生き残れないのは当然ですから、大きく変化する自動車業界の流れに適応できてこそ、真の部品メーカーと言えるのではないでしょうか。電装関係のメーカーはホッとするところでしょうが、ミラーレス、ハンドルレスになる日が来ると考えたとき、油断してはいられません。
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すべてを統べるCCSCモデルかあ。