排ガスおよび燃費に関する不正問題で揺らぐ日野自動車ですが、このタイミングで新型車を発表、発売しています。
それは本来であればもっと注目されるはずだったEVトラックなのです。
目次
日野の現状について
2022年3月4日、国内工場で製造する中大型のトラック・バスについて、ディーゼルエンジンの排出ガスのデータを改竄し、国土交通省に提出していたと発表。
エンジン不正問題に関する特別調査委員会において、2003年以前からエンジン不正が行われていた事が明らかとなった他、現行エンジン14機種中12機種において排ガス不正が行われていた事が明らかとなりました。
これにより2022年8月現在、日野が販売している車種は小型トラックの「デュトロ」といすゞ製エンジンを搭載する大型バス「ブルーリボン」、中型バス「レインボー」の3車種のみとなっており、自社エンジン搭載車の販売はデュトロのみ。2021年度の国内販売ベースで50%が出荷不可能な状態です。
デュトロZ EV
このような騒動のさなか、2022年6月28日にEVトラック「デュトロZ EV」の販売を開始しました。Zの読み方は「ズィー」。
小型トラックであるデュトロはトヨタとの共同開発により1999年5月に初代が登場。その後2011年にフルモデルチェンジを実施し2代目となります。「ヒノノニトン」のキャッチコピーでおなじみです。
そのEV版として、より静かでクリーンな次世代の小型トラックの登場となります。しかしただトラックをEV化しただけではありません。いくつかの特徴をご紹介いたします。
特徴①:ウォークスルーできる
EVとしたことで超低床化を実現。これによりハイルーフで動きやすい運転席・キャビンから荷室へスムーズに移動できるウォークスルー構造を採用しています。車外に降りることなく積荷を取り扱うことができます。
さらに荷室の左側にもスライド扉を配置することで、歩道側からの乗り降りも可能にしています。荷室の高さは1,795mmを確保。立ったままの作業も可能で荷役性が飛躍的に向上しています。
そして特筆すべきは、これによりトヨタ自動車(エンジンのみ日野製)で過去に生産販売していたクイックデリバリーの一般向けが2011年に生産終了した以来、11年振りにウォークスルーバンが復活したことになります。
ヤマト運輸向けは2016年まで生産されていた
これまでのようなウォークスルー専用車ではなく既存のトラックをベースに開発したことで、従来の小型トラック同様の取り回しの良さを可能にしています。
特徴②:十分な航続距離
40kWhの大容量バッテリーを搭載することにより、一充電当たり150kmと市街地での配送には十分な航続距離を達成しています。普通充電、急速充電どちらにも対応しています。
ちなみに三菱ふそうのEVトラック「eキャンター」の場合、駆動用バッテリーは、370V/13.5kWhのバッテリーを6個搭載し81kWhと大容量ですが、一充電当たりの約100kmとなっています。こちらは車両総質量7.5トン級の小型EVトラックであり、より重量の軽いデュトロZ EVの方が航続距離で勝っています。
出典:https://www.mitsubishi-fuso.com
特徴③:普通免許で運転可能
2022年現在の道路交通法では、普通免許で運転できる車両は次の条件全てに該当する必要があります。
・車両総重量が3,500kg未満のもの
・最大積載量が2,000kg未満のもの
・乗車定員が10人以下のもの
このデュトロZ EVの車両総重量は3.5t、最大積載量は1.0tとなっています。小型トラックのデュトロにも普通免許に対応した車両総重量3.5t、最大積載量1.5tのラインナップはありますが、普通免許で運転できるモデルが増えたことになります。これはありがたいことですね。
2017年から始まった新普通免許制度の影響で、なかなかドライバーが集まらなず、新人が入ったとしても準中型・中型免許を取ってからでないと運転できないといった顧客からの声を反映させた形です。
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※車両総重量、最大積載量項目「~数値」の場合「未満」、「数値~」の場合「以上」を意味する
特徴④:リースのみ
EVの導入には充電設備といった様々なハードルがあります。
しかしデュトロZ EVは、メンテナンスのゆき届いたフルメンテナンスリースでの提供のみとなります。
これにより電動車導入時や月々の支払いが明瞭となり、電動商用車および充電器などの周辺機器の導入や、効率的な稼働に必要となるエネルギーマネジメントに関しては、日野のグループ会社であるCUBE-LINXが新たなソリューションを提供開始予定です。
EV導入のハードルを一気に下げることができます。
普及なるか?
開発にあたりラストワンマイルの現場の使い勝手を追求したというデュトロZ EVは、新開発の専用シャシーにより超低床構造でウォークスルーも実現。荷役作業性や乗降性に優れ、新普通免許で運転可能なコンパクトな車体となっています。
ネット通販市場の急速拡大の影響で、宅配事業における物量が増大するいっぽう、従来の2t車では大きすぎるケースも多くなってきたことが理由に挙げられています。
ラストワンマイルとは
物流におけるラストワンマイルとは、最終拠点からエンドユーザーへの物流サービスのことをいいます。
「最後の1マイル」という距離的な意味ではなく、お客様へ商品を届ける物流の最後の区間のことを意味します。
出典:大和物流株式会社HP
長距離・大量輸送を前提としないことで、EVという航続距離が制限されたなかでも十分にその力を発揮できることが考えられます。こうした配達車両におけるEVは、軽商用EVである三菱・ミニキャブMiEVが郵便車として日本郵政に納入された実績があります。
EV車両導入・拡大への取り組み
2019年度 EV四輪車400台およびEV二輪車200台をガソリン車から切り替え 2020年度 EV四輪車1,100台およびEV二輪車2,038台をガソリン車から切り替え ~2025年度 EV四輪車約12,000台およびEV二輪車約21,000台をガソリン車から切り替え予定 出典(一部抜粋):日本郵HP
企業との実証実験を繰り返し大口納入が決まれば、小型トラックの選択肢として大きく普及していくことが考えられます。既に多数の企業がデュトロZ EVを使用した実証実験を行っているようで、今後の活躍に期待されます。
しかしご存知の通り日野自動車は会社の存亡をかけた窮地に陥っており、今後の動向次第ではブランドの消滅もありえる状況です。同業他社のいすゞも同様なウォークスルータイプの小型EVトラックを開発中というなかで、どのようにお客様に訴求していくかが問われています。
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