自動車の安全性は日々進化し、メーカーにとっても非常に高いレベルが要求される時代になっています。
自動車の衝突事故における人、車両、道路環境についての損傷の軽減に焦点を置いた調査研究を行っている「米国道路安全保険協会」が、これまであまり真剣に議論されてこなかった、後部座席の安全性について興味深い研究結果を公表しました。
目次
「後部座席の安全性は徹底的に見直す必要がある。」
(和訳)
米国道路安全保険協会(The Insurance Institute for Highway Safety (IIHS) )は正面衝突における後部座席の乗員に関する新たな研究結果を公表しました。これは自動車メーカーが今後焦点を当てなければならない課題となるでしょう。研究結果によると、「フロントシートの乗員はエアバッグやシートベルトと言ったテクノロジーの恩恵を十分に受けているのに対し、後部座席の乗員におけるそれは十分ではない。」としています。
このIIHSの研究では、正面衝突事故における後部座席に座る6歳以上の乗員に注目し、クラッシュテストの情報を元に、後部座席の保護についての新たな試験方法を考え出しています。
IIHSは2014年12月にも同様の研究結果を公表していますが、この研究結果を元に新たな規格の正面衝突試験が設定されることでしょう。
IIHSの研究員は後部座席の乗員が重傷を負った、または死亡した117件の事故を調査しました。その結果最も多かったのが、胸の負傷でした。負傷した乗員のうち22人、死亡した37人のうち17人で事故後の胸の外傷が確認できました。しかし死亡事故の多くが「助かることができた」と結論づけています。
言い方を変えれば、後部座席の乗員にはスペースに余裕があるということです。ダッシュボードと面と向かった運転席・助手席と違い、後部座席は乗員にとって多くの余裕があるのです。
フォースリミッターが解決策?
もちろんシートベルトは事故に起因する負傷・死亡の軽減に大きく役立ってきました。しかしシートベルトは事故時に乗員をベルトへ押しつけることになります。IIHSの研究によると、対象とした117件のほとんどでこの機能によってむしろ胸を負傷させてしまっていると明らかになりました。
後部座席の安全性を向上させる一つの解決策として、フォースリミッターがあります。運転席・助手席にはこの機能がシートに搭載されており、ベルトに力が大きくかかる前に少し緩めることができます。後部座席には典型的にこの機能が欠落しているとIIHSは言います。その理由はおそらく、IIHSが正面衝突テストにおいて後部座席保護のテストをフロントシートと同じくらい厳密には行っていないという事実によると思われます。
クラッシュテンショナーもフォースリミッターと供用可能です。事故が起きた瞬間作動し、運転席・助手席の乗員をシートに引き戻し、ダッシュボードやフロントガラスへの接触を回避する役割を果たします。その後フォースリミッターが作動し、乗員を徐々にエアバッグへと向かわせます。
メルセデスベンツやフォードはひとつの解決策として、膨張するシートベルトの開発を行っています。これにより胸への力をよりよく分散させることができます。IIHSが言及するもう一つの可能性としては、リアシート用のエアバックですが、これはどの自動車メーカーも実現したことがありません。
IIHS所長デイビッド・ハーキー氏はこの挑戦について、「自動車メーカーがフロントシートで可能だったように、後部座席におけるこのパズルを解き明かす方法を見つけると確信している。」と語っています。
・・・所感・・・・・・・・・・・・・・・
シートベルトについては2008年6月の道路交通法改正で、高速道・一般道を問わず、全ての座席での着用が義務化されています。
しかし今年はじめに鹿児島県警がドライバーを対象に行った調査結果によると、後部座席のシートベルトについておよそ4割が「一般道では義務ではない」と誤った回答をしたといいます。高速道路では安全、また警察の目もあるので着用する場合が多いかと思いますが、一般道での着用はなかなか浸透していないのが現状です。
事故に巻き込まれてからでは遅いとは分かっていても、やはりどこか面倒な部分がありますね。