金融商品または企業・政府などの信用状態に関する評価を簡単な記号または数字で表示した等級を「信用格付(しんようかくづけ)」といいます。
日本では金融庁に登録を受けた格付会社が格付けを行っており、信用格付業者と呼ばれます。
債権の売買・保有を行う場合、こうした企業に対する評価を参考にするのですが、もちろん自動車メーカーも評価されています。本記事では2018年~2019年現時点での各自動車メーカーの格付けを比較してみました。
目次
債務・債権とは
その前に、まずは少し勉強しましょう。
「債務とは」と調べると以下のようにでてきます。
特定人(債務者)が他の特定人(債権者)に対して、一定の行為(給付)をすることを内容とする義務。金銭を借りた者が貸し手に対して、その返還をしなければならない義務など。
つまり、AがBに対して一定期日まで100万円を貸した場合に、期日がくればAはBに対して「100万円を返せ」と請求でき、これに応じてBは100万円を返さなければならないということですね。
A:債権者・・・「100万円返せと言える権利」
B:債務者・・・「100万円返す義務」
これは簡単に言えば「借金」のメカニズムです。
格付の種類
なぜ債務について言及したかと言うと、格付とは「企業の債務」を格付するためだからです。格付会社によって名称(商品名)に違いはあるものも、代表的なものとして以下のような格付を発表しています。
上記の債務・債権についてを踏まえてみてみましょう。
○発行体格付 |
債務者が債務を契約どおりに履行する能力を格付したもの。
発行体格付とは、債券の発行体の信用リスクの度合いを示した格付のことです。発行体が破綻するとその債券がデフォルト(債務不履行)に陥るため、発行体の信用リスクを認識しておく必要があります。債券自体の信用リスクの度合いを示した格付のことは債券格付といいます。 つまり:借金したらちゃんと返せる能力があるのか? |
○長期債務格付 |
長期債務に対する格付。劣後債(無担保)の格付と、優先債(有担保)のものがあるが、通常格付といった場合は、劣後債に対する格付、あるいは発行体格付のことを指す。長期とは、債務完了期日までの期間が1年以上の状態を示す。
格付け会社が付与する格付けのうち、債務完了期日(支払い期限)までの期間が1年以上のものに対する個別格付けのこと。通常格付けといえば、長期債務格付けまたは発行体格付けを表す。 つまり:1年以上先の返済日までに返せそうか? |
○短期債務格付 |
コマーシャル・ペーパーなどの、1年未満に返済される債務に対して格付をしたもの。中小企業格付債券の発行を前提としない中小企業の信用力を格付したもの。
コマーシャルペーパー(Commercial Paper、通称:CP)とは、ある程度の信用力を有する大企業がオープン市場から短期資金を調達するために発行する無担保の割引約束手形のこと。1年未満で債務完了期日(支払期限)に到来するもの。 つまり:返済期限が迫っているが、返せそうか? |
長期と短期が分かれている理由としては、直近の業績は良好なので短期的に支払いに問題がないが、財務内容が悪く、少し業績が悪化すると長期的に見れば支払いが行われない恐れがある企業などがあるからです。
したがって、当初は長期債務であっても、時の経過により、決算日の翌日から1年以内に支払期限が到来するようになった場合は、原則として短期債務に計上します。
格付を行う機関
日本では金融庁に登録を受けた格付会社は信用格付業者と呼ばれ、2013年1月31日現在、以下の7社があります。
登録番号 | 業者名 |
---|---|
金融庁長官(格付)第1号 | 株式会社日本格付研究所(JCR) |
金融庁長官(格付)第2号 | ムーディーズ・ジャパン株式会社(Moody’s) |
金融庁長官(格付)第3号 | ムーディーズSFジャパン株式会社(Moody’s) |
金融庁長官(格付)第5号 | スタンダード&プアーズ・レーティング・ジャパン株式会社(S&P) |
金融庁長官(格付)第6号 | 株式会社格付投資情報センター(R&I) |
金融庁長官(格付)第7号 | フィッチ・レーティングス・ジャパン株式会社(Fitch) |
金融庁長官(格付)第8号 | 日本スタンダード&プアーズ株式会社(S&P) |
格付けの定義
格付機関はそれぞれ独自の定義を持っていますが、大まかには以下の通りです。
AAA | 優良な国家の国債などで、信用リスクはほぼ0である。 |
AA | 準優良な国家や、優良な大企業などで、信用リスクはかなり低い。 |
A | 優良な企業など、信用リスクは低い。 |
BBB | 良好な企業や好調な企業など、現状の信用リスクは低い。しかし将来的に、信用リスクが上昇する懸念もある。 |
BB | やや財務健全性に懸念がある企業など、当面の信用リスクは高くはないが、将来的に信用リスクが低いままとは言えない。 |
B | 財務健全性に懸念がある企業など、当面の信用リスクがやや高い |
CCC | 現状で支払いに懸念がある企業など、信用リスクが高く、すでに正常に支払いが行われないリスクがある。倒産の疑いも生じる。 |
CC | 信用リスクが高く、正常に支払いが行われないリスクが高い。倒産懸念先。 |
C | 信用リスクが非常に高く、正常に支払いが行われないリスクが非常に高い。倒産予備軍。 |
D以下 | すでに正常に支払いが行われていないなど、信用リスクが顕在化し、デフォルトに陥っている。倒産。 |
格付についてある程度理解したところで、それでは各社の格付けを見てみましょう。会社によって公表している格付の種類は異なります。
※メーカーサイトに日付の記載がある場合はその日付となっていますが、記載がない場合は各格付機関におけるレポート発行時の日付としています。
トヨタ
(平成30年5月31日現在)
格付機関名 | 長期債務格付 |
---|---|
スタンダード・アンド・プアーズ (S&P) | AA- |
ムーディーズ | Aa3 |
格付投資情報センター (R&I) | AA+ |
ホンダ
日産
(2018年12月31日現在)
格付機関名 | 長期債務格付 | 短期債務格付 |
スタンダード・アンド・プアーズ(S&P) | A | A-1 |
ムーディーズジャパン(Moody’s) | A2 | P-1 |
格付投資情報センター(R&I) | A+ | a-1 |
※2019年2月21日、S&Pは長期発行体格付「A」から「A-」に1段階引き下げを発表。「収益性を早期に回復させることは難しい」との判断。
三菱
(2019年2月8日現在)
格付機関名 | 長期債務格付 |
---|---|
格付投資情報センター(R&I) | BBB |
スタンダード・アンド・プアーズ(S&P) | BB+ |
(R&I)長期債務格付 ワンランクアップ【BBB- → BBB】
(S&P)長期債務格付 ワンランクアップ【BB → BB+】
スズキ
(2018年9月3日現在)
格付機関名 | 長期債務格付 |
---|---|
格付投資情報センター(R&I) | A |
ダイハツ
(R&I: 2018年12月20日現在)
格付機関名 | 発行体格付 |
格付投資情報センター(R&I) | AA- |
スバル
(R&I: 2018年11月7日時点)
格付機関名 | 長期債務格付 | 短期債務格付 |
---|---|---|
格付投資情報センター(R&I) | A- | a-1 |
マツダ
(JCR: 2018年9月12日/ R&I: 2018年8月6日現在)
格付機関名 | 長期債券格付 | 短期債券格付 |
日本格付研究所(JCR) | A- | – |
格付投資情報センター(R&I) | BBB+ <発行体格付け> |
– |
ランキング
信用格付け業者によって同じ会社でも評価は違っていますが、上記の格付け定義にのっとって並べてみましょう。
順位 | 企業名 | 長期・発行体格付 | ||
1 | トヨタ | AA- | Aa3 | AA+ |
2 | ホンダ | A2 | A | AA |
3 | 日産 | A | A2 | A+ |
4 | ダイハツ | AA- | – | – |
5 | スズキ | A | – | – |
6 | スバル | A- | – | – |
7 | マツダ | A- | BBB+ | – |
8 | 三菱 | BBB | BB+ | – |
こういった順位となりました。やはりトヨタが最も安定していると言えます。最下位の三菱自動車に関しては、資本提携する日産自動車との相乗効果で収益力が回復し、開発体制やリスク管理など企業統治を見直した点などを評価され、長期債務格付は「トリプルB」「BBプラス」と格上げされています。
しかし日産自動車についてS&Pは、収益性を早期に回復させることは難しいとの判断に基づき、同社の主要市場である北米、中国、日本において今後1~2年、収益への下押し圧力が続く可能性が高いことに加え、仏ルノーとの新経営体制の安定化には時間がかかるとの見方を示し、長期債務格付「A」から「Aマイナス」に格下げる方針を明らかにしています。(メーカーHPの更新はまだの模様)
さらにホンダの長期債務格付についてS&Pは「Aプラス」から「A」に格下げを行っています。しかし見通しは「ネガティブ」から「安定的」に変更されています。
これらの信用格付は、その会社および連結子会社が格付機関に提供する情報または格付機関が信頼できると考える他の情報に基づいて行われるとともに、発行する特定の債券に係る信用リスクに対する評価に基づいています。各格付機関は信用格付の評価において異なった基準を採用することがあり、かつ各格付機関が独自に評価を行っております。これらの信用格付はいつでも格付機関により改訂または取り消しされることがあります。
格付は債券の売買・保有を推奨するものではありませんが、こういったところからも、大まかに各企業の安定性を見ることができますね。是非気にしてみてください。