日本国内における最近の売れ筋と言えば、何と言ってもSUVとミニバンでしょう。特にミニバンは荷物も人もたくさん積める、人気の車種です。
そんなミニバンのご先祖様といえる車をご紹介します。
目次
ミニバンとは
そもそも「ミニバン」とはその名の通り、「ミニ」な「バン」です。米国での分類で商用バンとして一般的な「フルサイズバン」より小さい車体形状の車のことを言います。
2008 フォード エコノライン Eシリーズ
しかし「フルサイズバン」が一般的でない日本においては、「ミニバン」の「ミニ」に小さい「バン」であることを表す意味はありません。
規格や技術的な定義は存在しないため、最近主流のスライドドアを持つ天井の高い軽自動車に対しても「ミニバン」ということができますが、そこは区別をするために「ハイトワゴン」や「トールワゴン」と言われます。
日本初のミニバンは?
1975年10月31日から11月10日まで開催された第21回東京モーターショーに出展された。「トヨタ MP-1」コンセプトがあります。
5代目クラウン2600をベースに製作されたワゴンモデルで、ユーザーが多目的に使える車両として開発されました。MPとはマルチパーパスの略称で、現在のミニバンコンセプトを先取りした画期的な車両でしたが、発売されることはありませんでした。
発売されなかったのが不思議なくらいのハイクオリティ
そのため国内では三菱自動車工業が1983年に発売された三菱・シャリオ、日産自動車が1982年に発売した日産・プレーリーの2車種が国内における「国産ミニバンのパイオニア」として呼ばれることが多いようです。
三菱 シャリオ
日産 プレーリー
ミニバンのご先祖?
アメリカでは、「クライスラーKプラットフォーム」という乗用車のモノコックベースで製作されて1983年に1984年モデルとして発売されたクライスラーのダッジ・キャラバン2代目、およびプリマス・ボイジャー2代目がミニバンのスタイルを決定付けたオリジナルとされます。
しかしこのはるか昔である1930年代。現在のミニバンのご先祖とも言われる車がアメリカで発売されていました。
スタウト・スカラブ(Stout Scarab)は、航空エンジニアであるウィリアム・ブッシェル・スタウトにより設計され、スタウト技術研究所と後にデトロイトのスタウト・モーターカーで少数が生産された1930年代から1940年代にかけてのアメリカ合衆国の乗用車であり、その多数の斬新さと革新性を持ち合わせた独自性から、現代では「世界で初めて製作されたミニバン」と言われています。
スカラブ(スカラベ)という名前は古代エジプト語で「コガネムシ/フンコロガシ」という意味で、再生や復活の象徴である聖なる甲虫として崇拝されていました。このスカラブをかたどった石や印章などは現代においても非常に有名です。
スタウトは航空機と地上を走行する自動車との空力的な特性の違いから、自動車に求められる理想的な形態として、底面が平たく上面がなめらかに弧を描く亀の甲羅のような姿に着目し、このスカラベをモチーフに車両の開発をスタートしたのです。この車の全体的なプロポーションはもちろんのこと、フロントにもこのスカラベをモチーフとした意匠が施されています。
結果として非常に短い流線型の鼻先と後部上面が絞られた形状のボディは、現代のMPVやミニバンのデザインを先取りしたものとなり、取り外し可能なテーブルや180度回転して後ろ向きになる2列目シートを装備するなど、ユーティリティと創造性に富んだ車となっています。
スカラブの最初の実走行可能な試作車は1932年に完成。鋼鉄製のボディで完全ハンドメイドのこの車はのちに数量限定で生産され、選ばれた顧客に販売される予定でした。当時多くのメディアで取りあげられたものの、販売価格5,000ドル(2010年換算で$80,000相当)という価格に手が出せる者はほとんどおらず、スカラブの総生産台数はわずか9台でした。
当時最先端であったクライスラー・インペリアル エアフローの価格が僅か$1,345の時代を考慮するといかに高価であったかが分かります。
1963 クライスラー インペリアル
しかしインペリアルのような当時の一般的な車と比較しても、いかにその存在が特異であり、時代を先取りしていたかは明白です。最大で5台のスカラブが現存すると言われており、いくつかは走行可能な状態だと言うことです。
▶The Stout Scarab: The World’s First Minicvan? – Wall Street Journal
未来の車はどうなる?
当然この時代にミニバンというジャンルは存在せず、このスカラブもファミリーユースなどを想定していたかは定かではありませんが、時代の先取りは失敗するケースの方が多いように思います。色々な商品が出尽くしている現代になればなるほど先取りが難しくなるのは自然なことで、いくら先進的なモノを売りだしても人がついてこなければ結局意味はありません。
おそらく自動車に関しては完全自動運転の電気自動車で交通事故のない世界がゴールのように思えますが、これが達成された時、一体次は何をすればよいのでしょうか?個人的には車は道路に支配されると考えます。
電磁誘導で浮遊させた車両が、電子制御された専用道路の上を滑るような形で行き来する世界が来るはずです。車の電源は道路から給電され、道路と車両との電磁的反発力によって推力を得ます。一台一台の車が道路から完全に浮遊した状態で全国に張り巡らせた専用道を通って目的地まで行くのです。道路が車を制御すれば、自動運転も可能で交通事故は発生しません。
専用道に乗るまでの私有地や小道、駐車時には非常用タイヤを出し、電気自動車として走行できます。しかしいずれは世界中の道路が標準化された専用道になり、それを達成することが目的となっているような世界が来るのです。
・・・という未来の世界を考えてみたりして、実際に道路とセットで浮遊する車が出来上がったとしても、すぐさまヒットしないのは明らかです。時代の先取りというのは、2、3年先を見るぐらいでちょうどいいのかもしれません。