2025年6月6日、ヤマト運輸株式会社はバッテリー交換式電気自動車の実証実験を開始すると発表しました。
三菱ふそうトラック・バスおよび三菱自動車工業が車両の提供を行い、Ample Inc.がバッテリー交換ステーションの設置・運用を行うことで集配業務でのバッテリー交換式EVの実用性を検証します。
目次
東京都内で150台規模
三菱ふそうトラック・バス株式会社(本社:神奈川県川崎市、代表取締役社長・CEO:カール・デッペン、以下:MFTBC)、三菱自動車工業株式会社(本社:東京都港区、代表執行役社長兼最高経営責任者:加藤 隆雄、以下:三菱自動車)、Ample Inc.(本社:アメリカ合衆国、CEO:ハレド・ハッソウナ、President:ジョン デ ソーザ、以下:Ample)、ヤマト運輸株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長:阿波 誠一、以下:ヤマト運輸)の4社は、バッテリー交換式電気自動車(EV)とバッテリー交換ステーションの、物流事業者の業務における実用性に関する実証(以下:本実証)を、2025年9月から東京都で行います。
本実証では、150台超のバッテリー交換式EVと14基のバッテリー交換ステーションを使用します。本実証は東京都および東京都環境公社の2024年度「新エネルギー推進に係る技術開発支援事業」に採択されています。
気になるのは、三菱自動車が参加するという点です。
参加企業の役割という項目に、「軽商用EV「ミニキャブEV」バッテリー交換式車両の企画・提供・整備」とありますが、三菱自動車が現時点でラインナップするミニキャブEVはバッテリー交換式ではありません。
ミニキャブEV
さらにこのような記述があります。
以前から実証を行っていたMFTBC、Ample、ヤマト運輸に加え、今回、2011年に軽商用EVであるワンボックスタイプの「ミニキャブ・ミーブ(現ミニキャブEV)」を市場投入し、長年の知見と経験を有している三菱自動車が参画することで、さらに幅広い物流事業者のニーズに応えます。
つまり、三菱自動車が新たにバッテリー交換式のミニキャブEVを開発し提供するということになります。
ホンダと実験していたはずでは?
ここでさらに気になるのはホンダの存在です。
ヤマト運輸はバッテリー交換式EVの集配業務における実証を2023年11月にホンダと実施していました。
その際使用していたのがホンダ「MEV-VAN Concept」という、交換式バッテリーのモバイルパワーパック8本を搭載した電動パワーユニットで走行する軽EVモデルです。いわゆるバッテリー交換式N-VAN e:です。
N-VAN e:
本田技研工業株式会社(本社:東京都港区、取締役 代表執行役社長:三部 敏宏、以下 Honda)とヤマト運輸株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長:長尾 裕、以下 ヤマト運輸)は、交換式バッテリーを用いた軽EV(電気自動車)の集配業務における実証を2023年11月から開始します。
なお、交換式バッテリーの電力には再生可能エネルギー由来電力(以下 再エネ電力)を活用し、エネルギーマネジメントの実現に貢献します。本実証には、交換式バッテリーを動力源に走行するHondaの軽EV「MEV-VAN Concept(エムイーブイバン コンセプト)」を使用します。
この際は群馬県内で1台だけの実験でした。
なぜホンダと組まなかった?
しかし新たに2025年9月より開始される実証実験は、東京都内で150台越の大規模なものです。
ホンダはバッテリー交換式のN-VANを既に開発済みでしたが、なぜ三菱ミニキャブEVを新たに採用したのでしょうか。実験の検証内容を比べてみるとそのヒントが見えてきます。
検証内容
(2023年11月~) ホンダ |
(1)集配業務における実用性や車両性能 (2)太陽光発電による再エネ電力の有効活用 (3)交換式バッテリー運用における各種基礎データの取得・検証 |
検証内容
(2025年9月~) 三菱 |
(1)バッテリー交換式EVの大規模運用 (2)バッテリー交換ステーションにおける異なるブランド・サイズの車両の運用 (3)集配業務における実用性や車両性能 (4)内燃車、充電式EVと比較した経済合理性 (5)交換式バッテリーEVの運用における各種基礎データの取得 |
ともに実用性やデータ収集はもちろん、ホンダと実施したのは太陽光発電による再生可能エネルギー電力を活用するというものでした。だからこそ運用は1台のみと小規模であったと思われます。
一方で今回の実験は再生エネルギーにとらわれない大規模な運用を目的としており、バッテリー交換式EVの実用化と技術の確立および運用基盤の構築を目指しています。再生可能エネルギー電力の使用は次のステップという位置づけです。
しかし、大規模運用なら引き続きホンダと連携した方が早いのではと思いますが・・・下記のような理由が考えられます。
N-VAN e:を使用したものの、使用環境に合わなかった?
検証内容には「集配業務における実用性や車両性能」が含まれます。
これはバッテリーレイアウトを含む集配業務における車両の使い勝手や、航続可能距離などバッテリー交換作業と現場オペレーションの両立性、さらに登坂時や積載量の多い場合など、集配業務におけるさまざまな条件下で必要とされる動力性能の確認を意味します。
N-VAN e:は一般的な軽商用バンとはボディ形状が異なるため荷室が広くありません。また前輪駆動であるため重い荷物を載せるほど車体前方のトラクションが失われ走行性能が低下する可能性があります。一方でミニキャブEVは一般的な軽商用バンと同等の荷室を確保しており、後輪駆動です。
このような車両の特性が、ヤマト運輸の要求とマッチしなかったのかもしれません。
後からホンダも参加する?
検証内容に「バッテリー交換ステーションにおける異なるブランド・サイズの車両の運用」とあります。
これは同じく参画する三菱ふそうのe-キャンターとミニキャブEVの2モデルを意味しているかもしれませんが、それ以外の車種としてN-VAN e:も使用される可能性があります。
ヤマト運輸のプレスリリース内には「参画パートナーの募集」という項目があり、本実証の開始にあたり、実証に参画する車両メーカーや物流事業者などのパートナーを募集すると記載されていることから、今後別のメーカーが参画してもおかしくはないでしょう。
ホンダは見送り?
冒頭にも記述しましたが、「長年の知見と経験を有している三菱自動車が参画することでさらに幅広い物流事業者のニーズに応えます。」とあるように、三菱のノウハウを期待している側面が大きいように思えます。
三菱自動車は世界初の量産EV「i-MiEV」をはじめ、アウトランダーPHEVなどの電動車両開発や充電ステーションの運用など、間違いなくホンダ以上に経験が豊富です。加えてミニキャブEVは日本郵便への大口納入も獲得しており、既にEV車両における大規模運用の実績があるという優位性があります。
バッテリー交換式EVは普及するか
バッテリー交換式の一番のメリットとしてはやはり充電時間の大幅な短縮にあります。
一般的にEVはバッテリーが大きければ大きいほど航続距離が多くなりますが、その分満充電には時間を要します。配送に特化した貨物車両であれば走行距離は限定的なのでそこまで大きなバッテリーは必要ありません。加えて交換式とすることで時間を短縮し、またすぐに出発することが可能となります。つまりすぐに充電する必要があるかどうかがポイントです。
例えば配送を終えて帰ってきた車両に荷物の積み込みと同時にバッテリーの交換をすることで、またすぐに出発するといった運用が考えられます。これにより充電のために使用できなかった分の時間が有効に活用でき、車両を複数用意する必要がなくなります。
さらにもし配送中に充電が切れそうになっても交換式のバッテリーを持ってくればその場で充電が可能になり、電欠の心配がなくなります。
実際の運用の中で様々なシチュエーションが考えられますから、実用的だとなれば一気に普及すると考えられます。
実証実験の行方に注目です。