SUVが人気の昨今。
売れる要素は様々ですが、今なら確実に売れたであろうモデルが、かつてホンダから発売されていました。それがホンダ・エレメントです。
目次
ホンダ・エレメント
その個性的なデザインは本田技研工業のアメリカ合衆国現地法人であるHonda R&D Americas, Inc.によるもので、アメリカのイーストリバティ工場で2002年から2011年まで生産されていました。
日本へは輸入という形で正式に販売されましたが、その期間は2003年4月から2005年12月とわずか2年弱。アメリカとは対照的に、日本での販売はあっという間に終了してしまいます。
しかし今見てみると、個性的で魅力的な車だったのです。
道具感あふれるデザイン
特徴的なデザインは「ビーチにあるライフセーバーが詰めるライフガード・ステーション」をキーコンセプトとしており、バンパーやフェンダー、サイドシルにはクラディングと呼ばれる無塗装の樹脂素材を使用することで、道具感とタフさを強調しています。
さらに個性を際立たせるのが側面の観音開きドア。安全性を両立させつつ独創的でスタイリッシュな印象を生み出しています。全体的にスクエアなイメージですが、無機質にならず温かみのあるデザインとなっています。
最近は丸みを帯びたクーペスタイルよりも、よりアウトドア感のあるスクエアなデザインがトレンドになっています。個性的でポップでなエレメントのデザインは、古さを感じさせないタイムレスな魅力があります。
道具感のあるインパネ
インパネは水平ラインを基調とし、大型エアアウトレットやエアコンのダイヤルなど、操作系のスイッチはそれぞれが大きくシンプルで直感的な操作性も追求した扱いやすいデザインとなっています。
最もユニークなポイントが独立した3つのメーター。円錐型のレンズで構成されており、スピードメーターにはキロメーター(km/h)表示に加えマイル(mph)表示も付いています。
さらに文字盤の色はインテリアカラーとマッチするようにコーディネートされています。
安心の4WDシステム
通常は燃費を抑えるFF状態で走行し、スタート時や加速時、雪上走行時など状況に応じて後輪にも適切な駆動力を配分。雪道などで高い走破性を発揮し、突然の路面変化にも対応するホンダ独自のリアルタイム4WDを搭載。軽量のデュアルポンプシステムを採用することで軽快な走りと低燃費も両立しています。
デュアルポンプシステムは、前輪と後輪に回転差が発生することによる油圧を利用し、前後輪をつなぐクラッチをつなぐことでFF⇔4WDの切り換えを行います。
安全性も充実
安全性能の研究においては、当時世界初の屋内型全方位衝突実験施設で行われました。実際の事故をより忠実に再現し、高い安全性能が追求されています。
新・衝突安全設計ボディ
衝突時の衝撃(G)をコントロールして人への傷害を軽減するHonda独自の衝突安全技術「Gコントロール」により、前面フルラップ衝突55km/h、前面オフセット衝突64km/h、側面衝突55km/h、後面衝突50km/hをクリアする「新・衝突安全設計ボディ」を採用。また乗員の傷害軽減を追求した頭部衝撃保護インテリアのほか、歩行者への安全にも配慮した「歩行者傷害軽減ボディ」も採用しています。
さらにボディ構造部材の大断面化や各ジョイントの大型化によって、高剛性化を図り、負担を効率よく分担できる構造を追求しています。
万一の衝突時におけるドアのキャビン進入を防ぐために、フック&キャッチャーシステムを採用。センターピラーのあるクルマ同等の高い剛性と衝突安全性能を実現しています。
まとめ
ポップで個性的なエレメントでしたが、アメリカでの人気とは裏腹に日本での販売台数は振るわず、トータルでわずか2000台程度しか売れませんでした。
これまでにない個性満載のSUVとしてデビューしましたが、日本では使い勝手の悪い観音開きドアに加え、無塗装樹脂を多用したデザインが安っぽいとみなされたのです。
この「クラディング」という無塗装樹脂は多少の傷も気にならない無塗装メタリックグレーの樹脂パネルとして当時開発されたものですが、今現在のSUVを見てみると無塗装樹脂が多くのモデルで採用されていると分かります。
SUVに求める価値観に「道具感」や「タフさ」はあまり必要とされていない時代であったこと、さらに3ナンバー登録であったことも災いし日本ではヒットとはなりませんでした。現在のようなSUVブームで、なおかつ個性や道具感が求められる時代であればヒット間違いなしのパッケージだったのですが、それを先取りしてしまったエレメントは残念ながら報われない存在となってしまいました。
しかし現在、中古車市場では人気商品の一つとなっており比較的高値で取引されています。
復活はどうか?
日本におけるホンダのSUVは2021年現在、ヴェゼル、CR-Vの2モデルとなっています。いずれもスタイリッシュで滑らかなデザインが特徴となっています。
ヴェゼルとCR-Vの中間として、エレメントのようなユニークで遊び心のあるSUVがあれば面白いかなと思います。かつてはクロスロードというボクシーなSUVも手掛けていました。そういったタフさや道具感を感じさせるようなSUVはホンダのイメージにありませんが、そのためにはエレメントの復活が最も近道なのではないでしょうか。