三菱自動車は2023年11月24日、軽商用バン「ミニキャブ-MiEV」を大幅改良し、「ミニキャブEV」として発売すると発表しました。
ミニキャブEVは2023年現時点で唯一の軽商用EVバンですが、今後発売されるであろう他社製の軽EVバンを迎え撃つべく、商品力を強化させた形です。
特に注目されるのがホンダが2024年春に発売開始を予定している「N-VAN e:」です。直接的なライバルとなりますが、人気のNシリーズに加わるEVに太刀打ちできるのでしょうか。
目次
ライバル?ホンダ・N-VAN e:
2022年12月7日、ホンダは今後のラインナップに軽EVが加わることを発表しました。
本田技研工業は9月28日、2024年春発売予定の新型軽商用EV(電気自動車)「N-VAN e:」に関する情報を同社公式Webサイトで先行公開した。「N-VAN e:」の航続距離についてはWLTCモードで210km以上を目標に開発しているなどの情報が公開されている。
「N-VAN e:」のパワーユニットは、配送業務に十分対応する航続距離とともに、電動アクスルの小型化、大容量かつ薄型化したバッテリーの採用、高電圧部品の集中配置により、商用車に必要な荷室空間を確保。エアコンの消費電力を抑え、実用航続距離の延長に寄与するECONモードも設定した。
充電機能については、より短時間で充電が可能な6.0kW出力の普通充電器に対応。充電時間は約5時間と、夜間に充電を行えば翌日はフル充電の状態で使用を開始することができ、充電時の使い勝手を考慮して車両の前部に充電リッドを配置することで、充電・給電時にも充電コードなどを気にせずに、クルマの乗り降りやドアの開閉をすることが可能。
給電機能では、AC車外給電用コネクターの「Honda Power Supply Connector(パワーサプライコネクター)」を使用すれば、N-VAN e:のバッテリーで合計1500Wまでの電化製品を使用することが可能なほか、可搬型外部給電器「Power Exporter e: 6000」「Power Exporter 9000」を使用することでそれぞれ最大6kVA、9kVAの高出力給電が可能となり、災害時などに出力の高い冷蔵庫や冷暖房器具など、複数の電化製品を同時に使用することができるとしている。
軽商用EVといえば2023年現在、三菱・ミニキャブEV(以下ミニキャブ)の1モデルしか国内に存在していません。軽EVバンを買うならミニキャブしか選択肢がない状況がしばらく続いていましたが、その選択肢が広がることになります。
大幅改良されたミニキャブは、N-VAN e:(以下N-VAN)の登場に生き残ることができるのでしょうか。さまざまな項目ごとに検証してみたいと思います。
外観
まずは外観を比較してみます。
ミニキャブ
ミニキャブ
N-VAN
N-VAN e:
ミニキャブは改良によりフロントバンパーの意匠が変更されていますが、もともとガソリン車として1999年に販売を開始して以来、基本的なボディ形状に大きな変更はありません。
N-VAN e:はフロントグリル部に充電ポートがある以外は、ガソリンモデルと大きな違いはありません。
外観:引き分け(好みによる)
内装
続いては内装を比較してみます。
ミニキャブ
改良後
(改良前)
N-VAN
ミニキャブは改良により灰皿・シガーソケットの廃止、各種安全装置の追加による小規模な変更が見て取れますが、インパネはガソリンモデルが発売された1999年のものをそのまま使用しており、一昔以上前の水準でEVという割には質素極まれりな印象です。メーターは機械式、シフト操作はレバー式です。よく言えば割り切っており、従来の軽トラと同じ感覚で乗ることができます。
N-VANのインパネは、商用車というより乗用車のようなデザイン性を感じます。メーターは液晶で、シフト操作はボタン式です。運転席のシートもしっかりとしており、そこそこの長距離でも疲れない配慮がされていますが、後部座席はともに簡素な造りになります。
内装:N-VANの勝ち
スペック
積載能力
商用バンとして最も重要なのが積載能力です。
共通する項目を比較すると以下のようになります。
2名乗車時 | 荷室長 (mm) |
荷室高 (mm) |
荷室幅 (mm) |
荷室床面 地上高(mm) |
スライドドア 開口幅(mm) |
最大積載量(kg) |
N-VAN e: | 1,480 | 1,365 | 1,390 | 540 | 1,580 | 300 |
ミニキャブ | 1,830 | 1,230 | 1,370 | 675 | 735 | 350 |
※2名乗車時
ミニキャブは軽商用バンとしての平均的で十分な積載能力を確保しています。特に荷室長に大きな差があり、荷室の体積を単純計算(荷室幅×荷室高×荷室長)してみると、ミニキャブが「3.08㎥」に対しN-VANが「2.81㎥」となり、ミニキャブが有利となります。さらに最大積載量にも50kgの差があり、軽バンとしてはミニキャブに軍配が上がります。
N-VANで有利な点としては、助手席側の開口幅がピラーレス構造により1,580mmと巨大なことです。
積載能力:ミニキャブの勝ち
サイズ、駆動方式
N-VANの詳細なサイズは不明のため、ガソリンモデルとの比較になります。
N-VAN(ガソリン) |
ミニキャブ | |
FF | FR | |
全長(mm) | 3,395 | 3,395 |
全幅(mm) | 1,475 | 1,475 |
全高(mm) | 1,945 | 1,915 |
ホイールベース(mm) | 2,520 | 2,390 |
最低地上高(mm) | 155 | 165 |
最小回転半径(m) | 4.6 | 4.3 |
全長、全幅は同じですが、全高はN-VANに軍配が上がります。駆動方式についてはN-VAN e:はFFと明らかになっています。対してミニキャブはFRとなります。
最小回転半径ではFRのミニキャブが有利です。荷物を積む商用バンであればミニキャブのような後輪駆動が動力性能的に有利となります。
サイズ、駆動方式:ミニキャブの勝ち
航続距離
ミニキャブと代表的な軽EVの電費を見てみましょう。
モデル | ミニキャブ | 日産・サクラ |
駆動方式 | FR |
FF |
バッテリー容量 | 20kW(330V) | 20kW(350V) |
一充電走行距離 | 180km | 180km |
WLTC | 127Wh/km | 124Wh/km |
市街地モード | 102Wh/km | 100Wh/km |
郊外モード | 119Wh/km | 113Wh/km |
高速道路モード | 142Wh/km | 142Wh/km |
交流電力量消費率とは、電力を利用する電気自動車(EV)の燃費に関する数値で、電費とも呼ばれる。 交流電力量消費率は電気自動車が1km走るのに必要な電力の容量(wh)を表している。 単位の表記はWh/km。 この数値が少なければ少ないほど電気自動車の車両としての燃費性能が良いということが判断できる。
ミニキャブは日産・サクラ、三菱・eKクロスEVと同じバッテリーを搭載することで、一充電走行距離は133kmから180kmに大幅向上しました。
N-VANは詳細が不明ですが、210kmを目標としていることから30kW以上のバッテリーを搭載すると予測されています。後発なので航続距離が負けることは無いと思われます。
ちなみに三菱自動車が実施した全国のドライバーアンケート調査によると、軽キャブバンが1日に走行する平均距離は77%の方が65km以下だといいます。近場をルーティン的に回るような使い方ならば、どちらでも十分と言えます。
航続距離:N-VANの勝ち?
先進安全装備
最近の自動車には当たり前の先進安全装備を比べてみましょう。
<ミニキャブの先進安全装備>
改良によりサポカーSワイドに該当するようになりました。[全車標準装備]
●衝突被害軽減ブレーキシステム[FCM](歩行者検知付)
●誤発進抑制機能(前進時)
●車線逸脱警報システム[LDW]
●オートマチックハイビーム[AHB]
<N-VANの先進安全装備>
サポカーSワイドに該当します。[一部装備なし]
●衝突被害軽減ブレーキシステム[CMBS]
●誤発進抑制機能(前進、後退時)
●車線逸脱警報システム[LKAS]
●オートマチックハイビーム[AHB]
そのほかにも先行車発進お知らせ機能、標識認識機能、パーキングセンサーシステム(フロント/リア)、歩行者事故低減ステアリング、アダプティブクルーズコントロール(ACC)、急アクセル抑制機能等、多くの先進安全装備が搭載さrています。
先進安全装備:N-VANの勝ち
価格
ミニキャブ
グレード | 駆動方式 | メーカー希望小売価格(消費税込) |
CD20.0kWh(2シーター) | 2WD | \2,431,000 |
CD20.0kWh(4シーター) | 2WD | \2,486,000 |
大幅改良にも関わらず、価格は据え置きです。
N-VAN
情報が公開された始めた2022年4月頃はガソリン車と同等の100万円台からの設定を予定と明言されていましたが、最近では100万円台という情報は公式に出てこなくなっています。250万円を切るかどうかも怪しい価格になりそうな雰囲気との情報もあります。補助金を使って200万円を切る程度であれば、ミニキャブと大差ないと思われます。
多くのメディアで報じられているような「補助金無しで200万円切り」にはほど遠いと考えておいた方がいいと思う。
価格:引き分け
結論
一言で言うと「ミニキャブに勝ち目はある」ということです。
N-VANについてはまだ情報が出揃っていないので結論を出すのは時期尚早ですが、荷室容量で軍配が上がったこと、さらに価格にそこまで差が無いということが大きな理由です。
電気自動車というと航続可能距離が一番のポイントと考えるかもしれません。実際その点においてはN-VANが有利となるでしょう。しかし実際のユーザーを考えて見れば、運送会社のラストワンマイルが賄えればそれでよいのです。決められたルートが短距離であれば航続可能距離が200kmだろうが300kmだろうがあまり気にする必要はありません。さらにミニキャブの方が価格が安く、かつ荷室が広く、最大積載量も多いとなると、事業者目線でどちらがお得かは明白なはずです。
さらにミニキャブには10年以上販売してきた実績があるのもポイントです。販売においては企業との実証実験や自治体とのタイアップ、フリート向けの大口顧客獲得など様々なアクションが既になされています。加えてアウトランダーPHEVに代表される電動車のラインナップ拡充にあわせたディーラーの充電設備、充電システムの普及、さらにはバッテリー保障など、電動車販売のノウハウをふんだんに持っているのが三菱自動車なのです。
仮に低価格なEVを販売できたとしても、その体制づくりがしっかりできていないと顧客は満足してはくれないでしょう。
N-VAN e:の販売は2024年春の予定です。その前にしっかりアップデートしたミニキャブEVは、十分太刀打ちできる商品力を持っていることが分かります。過熱してきた軽EV市場に今後も注目です。
出典:https://www.mitsubishi-motors.co.jp、https://www.honda.co.jp