SUVの人気とともに、本格的なオフロード車も注目され始めています。日本のような舗装がちゃんとしている地域ではさほど必要性はないものの、その動力性能に魅了される人は数多くいます。
そこで、ちょっと変わった一台をご紹介いたします。
目次
マヒンドラ タール
マヒンドラ タールはインドの自動車メーカー「マヒンドラ&マヒンドラ社」(以下マヒンドラ社)が2010年10月から製造するコンパクトオフロード車です。
インド・ラージャスターン州、パキスタン東部にあるタール砂漠 (Thar Desert)が名前の由来です。
エクステリア
こちらは「タール CRDe」という標準モデル。
伝統的な丸目ヘッドライトが特徴的なフロント周り。大きく張り出したフェンダーに、大型のバンパーが車体へのダメージを防ぎます。
サイドステップや取り外し可能なキャノピーが装備されており、まさにオフロード車といった感じのサイドビュー。最低地上高200mm、アプローチアングル44°、デパーチャーアングル27°と余裕の佇まいです。
インテリア
シンプルなインパネにはエアコンが標準装備されていますが、流行りのブルートゥースやアンドロイドオートはもちろん存在しません。パワーウインドウはありませんが、パワーステアリングが付いているだけでもありがたく思いましょう。
この車、こう見えて6人乗りというキャパシティーを備えています。運転席、助手席、さらに後部座席は向かい合ったベンチのようになっており、双方に2人ずつ座ることができます。
さらにレザーシートや専用ホイール、ABSなどの装備を充実させた特別仕様車「CRDe 700 Special Edition」もラインナップしています。そう、ABSもベースモデルには装備されていないのです。
価格は₹ 9,51,933(約146万円)。Special Editionは₹ 9,99,000(約153万円)[ムンバイ価格]となっており極めてリーズナブル・・・ですが最低限の装備なので上等な価格と言えます。
ジープからの発展
その見た目からも分かるようにこの車のルーツはウィリス・ジープにあります。
マヒンドラ社は1947年にライセンスを取得し、1949年からウィリス・オーバーランドCJ-3Aの生産を開始しました。当時は完成部品をアメリカからインドに輸出し、マヒンドラ社で組み立てていましたが、その後何年もの月日が流れるなかで、インドにローカライズされていきました。
Willys-Overland CJ-3A
ちなみに「ジープ」とはウィリス・オーバーランド社のブランド名です。
1953年にウィリス・オーバーランド社はカイザー社と合併し「カイザー・ジープ」となりますが、同社も1970年に倒産。その後AMCの完全子会社として「ジープコーポレーション」となります。しかしAMCが1987年にクライスラーによって買収されたことでAMCは「ジープイーグル」部門となりますが、1998年にクライスラーがダイムラーベンツ社と合併したことでイーグルブランドは廃止。その後経営不振に陥ったクライスラーを2014年にフィアットが買収しフィアット・クライスラー・オートモービルズを設立。そのままの流れで現在の独立したジープブランドに至ります。
その後マヒンドラ社では、CJ-3Aの後継であるウィリスCJ-3Bの生産を1953年から開始します。(オーバーランドが消えたのは合併によるもの)
ちなみにウィリスCJ-3Bは1953年から1968年まで生産されていましたが、この車もライセンス生産として多くの地域に民間用、軍用として提供されました。
Willys CJ-3B
その代表がインドのマヒンドラ社と日本の三菱自動車です。三菱ジープは1953年から1998年まで生産されていましたが、マヒンドラ社では上記の「タール」が発売される2010年10月まで生産が継続されていました。
タールのデザインは1960年式ジープCJや1940年製ウィリスCJがベースになっており、現在においてもその主要メカニズムはほぼ手が加えられていません。
本家ジープでは「ラングラー」が実質的な後継車となり、三菱自動車はこの車がのちの「パジェロ」へと発展を遂げていますが、マヒンドラ社の場合「タール」としてほぼそのままの姿で残っているのです。それぞれで進化の過程が大きく違っていて面白いですね。
ジープ ラングラー
三菱 パジェロ
本格オフロード車の時代が来る?
インドのようなまだまだ発展途上の国では、こうした本格的な”オフロード”性能がどうしても必要な地域は多くありますが、日本のような先進国ではどこもかしこも舗装された”オンロード”ですので、普通に生活する分にはそもそもオフロード性能は必要ありません。
もちろん季節によっては走破性が重要になりますが、それも先進的なトルク配分システムがあれば大方十分でしょう。
しかしそうしたシステムに頼るのではなく、あくまでドライバー自身の技術で車をコントロールし、どんな道でも乗り越えていきたいと思ったときに、車自体の基本性能が求められます。それを実現するのがオフロード車なのです。
そういった”本物”を自分の力で操りたいというのは、これまでマニアの仕事でしたが、猫も杓子もSUVの中で差別化をする意味でも、こうしたオフロード車が選択肢として入ってくると思います。
とはいっても近年の安全性に関する規制の関係で、タールのようなあまりにシンプルな機構の車はそもそも国内で販売できない状況にあります。タールが日本で売られていたら相当需要があると思いますが・・・世紀末のような未来が来ない限り、時代が進むにつれそうした車は少なくなってきます。
お探しの方は急いだ方がいいでしょう。