軽商用車の「新しい姿」を目指して開発され、2018年に販売を開始したN-VAN。
セミキャブオーバースタイルのアクティから一転し、2代目N-BOXで開発されたFF車用プラットフォームをベースとしたトールワゴン型のスタイルを採用。
これまでとは違った商用バンとして注目されましたが、果たして販売の調子はどうなのでしょうか。調査してみました。
目次
N-VANとは
2011年11月に発売した初代N-BOXを皮切りに展開している「Nシリーズ」の第5弾として、軽商用車の「新しい姿」を目指して開発された軽バンです。
シリーズでは初の商用車種であるとともに、以前販売されていたアクティバン/バモス/バモスホビオの実質的な後継車種という位置づけになっています。
2021年4月28日に4代目アクティトラックが販売終了となったため、ホンダが販売する貨物用自動車はこのN-VANが唯一となりました。
軽商用バンとしてはスズキ・エブリィ、ダイハツ・ハイゼットカーゴ(以下ライバル)が2台巨頭として長年君臨しています。その2台にどういった影響を与えたのでしょうか。
販売台数推移
N-VANの立ち位置を確認するために、ライバルとの売れ行きを比較してみます。
全国軽自動車協会連合会が公表している「軽四輪通称名別新車販売台数」を基に、N-VANが発売を開始した2018年7月以前から2022年3月までの販売台数をグラフにしてみました。
引用:全国軽自動車協会連合会
グラフ全体を見ても分かるように、N-VANが販売を開始したからと言ってライバルへの影響はほぼないというのが分かります。むしろその差は広がっており、同じ土俵にはいないことが明白です。
ホンダも他社同様のセミキャブオーバー型のアクティバンを販売していました。もちろん販売台数だけでは利益がどの程度出ているのか把握できませんが、軽商用バンとして売れ筋のセミキャブオーバー型を廃止する判断は本当に正しかったのでしょうか?
市場の人気度
販売台数が少ないからと言って人気が無いとは限りません。
価格.comの自動車 人気・注目ランキングの商用車を見ると以下のようになっていました。※2021年5月時点
トータルのランキングこそ上記のようになっていますが、満足度(☆評価)ではエブリィ3.74、ハイゼット3.15に対してN-VAN3.99と最も高評価となっています。
ちなみにハイゼットは2021年12月にフルモデルチェンジしたため新型は評価数が少なめですが、先代モデルの評価は3.68でした。
売れない理由は?
市場の満足度は高いものの何故販売台数は伸びないのでしょうか。その理由を考察してみました。
①荷室長が狭い
N-VANは2代目N-BOXで開発されたFF車用プラットフォームをベースとしたトールワゴン型のスタイルを採用しています。これによりミッドシップエンジンレイアウトを採用していたアクティバンとの比較で、荷室長が大幅に削減されています。
※2022年5月時点 | ハイゼット | エブリィ | アクティバン | N-VAN |
荷室長(2名乗車時) | 1,915mm | 1,910mm | 1,725mm | 1,510mm |
荷室フロア長さ | 1,965mm | 1,955mm | 1,940mm | 1,585mm |
荷室高や幅などはアクティと比べて改善されており、荷室レイアウトの全てが悪い数値というわけではありません。しかし商用車であれば荷室の幅や高さよりも長さが最も重要視されます。
そういった中で荷室長がライバルと比べて劣るのは、やはりマイナスポイントだと言わざるを得ません。
②前輪駆動
トラックも同様に、荷物を積めば積むほど後輪側に荷重がかかります。つまり後輪駆動(あるいは後輪駆動ベースの4輪駆動)であるほうが、しっかりとトルクを地面に伝えることができるため走行も安定します。
しかしライバルが後輪駆動なのに対し、N-VANは前輪駆動を採用しています。4WD仕様はビスカスカップリング方式を採用していますが、やはり駆動輪と比較するとトルク性能が大幅に劣ります。
また、同じサイズの車両の場合、FR車よりもFF車の方が一般には小回りが利きにくくなります。ライバルと比較した場合、ハイゼット4.2m、エブリィ4.1mに対してN-VANはFFが4.6m、4WDが4.7mと大きな差があります。
③価格が高い
商用バンは価格が安く、荷物をたくさん積めさえすればいいという方も多いはずです。その中でN-VANはライバルに比べてスタート価格が高いこともネックとなっています。
各モデルの最安価、最高価なグレードを並べてみました。
ハイゼット | 5MT |
FR | \1,045,000 |
スペシャル |
CVT | 4WD | \1,606,000 | クルーズターボ | |
エブリィ | 5MT | FR | \991,100 | PA(ハイルーフ) |
4AT | 4WD | \1,519,100 | JOIN(ハイルーフ) | |
N-VAN |
CVT/6MT | FF | \1,276,000 | G |
CVT/6MT | 4WD | \1,872,200 | +STYLE FUN・ターボ |
ともに2WD、4WDが選択できる豊富なグレード展開となっていますが、最も安価なのはエブリィのPAで100万円を切っています。
装備差による価格差はありますが、N-VANはライバルに比べおよそ20万円以上高い価格からスタートしていることが分かります。
選ばれる理由
売れない理由だけを見れば、商用バンとして魅力が無いように感じるかもしれません。しかしそれでもN-VANは全く売れてないというわけではなく、一定の人気を維持しています。一体なぜなのでしょうか。
①デザイン
キャブオーバー型のライバルとは違い、N-BOX譲りの乗用車ライクなエクステリアデザインが最も大きな違いです。これまでの商用車のように安っぽく見えず、オシャレな雰囲気すら感じます。
サイドの3本のビードラインはタフな印象を引き立てるだけでなく、サイドパネルの強度を高める機能も果たしています。ライバルのノッペリとしたフロントフェイスに比べ、親しみやすい顔つきとなっていることも大きな特徴です。
②パワートレインが凝っている
パワーユニットはN-BOXと共通の「S07B」型を、商用車特有の積載負荷や使われ方に配慮して最適化。ターボエンジンのスペックはN-BOXと同一で、ハイゼットのターボエンジンと比べるとトルクで大きく勝っています。
ちなみにエブリィは2022年4月にターボモデルが廃止となっておりNAモデルのみとなっています。
※2022年5月時点 | 最高出力(kW[PS]/rpm) | 最大トルク(N・m[kg・m]/rpm) |
ハイゼット | 47[46]/5,700 | 91[9.3]/2,800 |
エブリィ | 36[49]/6,200 | 60[6.1]/4,000 |
N-VAN |
47[64]/6,000 |
104[10.6]/2,600 |
さらにトランスミッションはホンダの商用車では初採用となるCVTを全タイプに設定するほか、NAエンジン搭載車はS660用をベースに改良した6速マニュアルを軽商用車で初採用しています。ダイレクトな操作感、積載時の駆動力とともに、高速走行時の静粛性を両立しています。
③積みやすい
軽商用車としては初めて助手席側のセンターピラーを廃した「ドアインピラー構造」を採用。長尺物などの積み下ろし作業における使い勝手の向上させています。さらにセンタータンクレイアウトを採用することで低床化を実現し、荷室高、荷室床面地上高ともにライバルと比較して圧倒的に優れています。
※2022年5月時点 | ハイゼット | エブリィ | アクティバン | N-VAN |
荷室高 | 1,250mm | 1,240mm | 1,200mm | 1,365mm |
荷室床面地上高 | 630mm | 650mm | 665mm | 525mm |
リアシートに加え助手席シートにもダイブダウン機構を採用し、助手席からリアシート・テールゲートにかけてフラットにつながる荷室を実現。これによりネックとなっている長尺物の積載も可能とし、バイクや自転車の運搬車両(通称トランポ)として人気を獲得しています。
④低燃費
燃費の良さもN-VANの大きな魅力の一つです。
各トランスミッションごとの最も燃費の良いグレードで比較した場合、ライバルと比べ圧倒的な低燃費性能を実現しています。
燃費(km/L) | ハイゼット | エブリィ | N-VAN | |||
トランスミッション | CVT | 5MT | 4AT | 5MT | CVT | 6MT |
駆動方式 | FR | FR | FR | FR | FF | FF |
WLTC[国土交通省審査値] | 15.6 | 14.9 | 14.6 | 17.2 | 19.2 | 19.8 |
市街地モード | 14.2 | 13.1 | 12.8 | 15.1 | 17.9 | 17.8 |
郊外モード | 16.7 | 16.2 | 15.0 | 18.1 | 20.5 | 20.7 |
高速道路モード | 15.6 | 15.0 | 15.2 | 17.7 | 19.0 | 20.2 |
選ばれるから人気が維持できる
N-VANとライバルを比較してみて、改めてその魅力を再認識しました。
エブリィやハイゼットは良くも悪くも「古き良き軽バン」の範囲を出ておらず、必要最低限を満たしつつも軽商用車として正当な進化をしていると感じます。一方でN-VANはそれら古典的な軽バンの欠点を解決するために開発されており、同じジャンルでありつつも全く真逆のポジションにいます。
つまりこれまでと同じような軽バンであればエブリィやハイゼットでよいのですが、N-VANを選ぶということはN-VANだけの魅力が理由ということになります。大きく差別化することでファンを獲得しているのです。満足度が高いのも納得がいきます。
さらに乗用モデルとしてエブリィは「エブリィワゴン」、ハイゼットは「アトレー」が用意されていますが、N-VANの場合は同モデルに装備を充実させたグレードが用意されています。N-VANは元々乗用車ライクな軽バンなので、たとえ商用車をベースにしていても違和感なくキャンプや車中泊と言った趣味に使えることも人気の理由だと考えられます。
たとえ販売台数で負けていたとしても、N-VANを指名買いしてくれる状況であることはメーカーにとって最も有難いことなのではないでしょうか。似たり寄ったりな軽バン市場において、ひとつのキャラクターを作り出した功績は大きいと思います。
これからの電動化時代において軽商用車の世界も大きく変わろうとしています。従来通りのパッケージに胡坐をかいて新たな時代に素早く適応できなけば、これまで築き上げてきた人気も名声もあっという間に崩れてしまうかもしれません。
電動化の時代でも多くの人から選ばれるような車を造ることができれば、軽バンの勢力図も大きく変わってくることでしょう。今後の動向に注目したいですね。
出典:https://www.honda.co.jp,https://www.suzuki.co.jp, https://www.daihatsu.co.jp